>> 研究活動に戻る

「国際交流を拡充したタスク基盤型の臨床実習」

1.事業の概要・特徴

本事業の概要・特徴は以下の4点である。

 

第一に、タスク基盤型学習理論(Harden,et al.2000)を応用する形で、臨床実習において学生が担うべき役割・業務(=タスク)を明確にし、学習や評価をそれらのタスクに基づいて行うことで、臨床実習を診療参加型にする。

 

第二に、臨床実習における海外との交換留学を推し進める。京都大学と提携する海外の大学を増やし、単位互換・奨学金などの教育体制を充実させて、海外での臨床実習を促進する。また京都大学での臨床実習を希望する海外からの留学生を積極的に受け入れる。

 

第三に、臨床実習で教育を担当する指導医として、京都大学内外の医師免許を持った基礎・社会医学研究者の中から臨床教育に関心のある人材を掘り起こし、指導医を担ってもらう。

 

第四に、京都大学の関連病院の中から15病院程度を重点化し、特に現在の臨床実習に欠けているプライマリ・ケア領域の教育を充実化する。

 

2.臨床実習の実施計画

(1)臨床実習の期間等


年度 23年度 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度
臨床実習の週数 学内実習 30 30 30 40 40 40
学外実習 17 17 17 31 31 31
その他 2 2 2 2 2 2
49 49 49 73 73 73
開始・終了時期 開始時期 5年次5月 5年次5月 5年次5月 4年次1月 4年次1月 4年次1月
終了時期 6年次7月 6年次7月 6年次7月 6年次10月 6年次10月 6年次10月
実習期間中に関わる(受け持つ)概ねの患者数 71〜80人 71〜80人 71〜80人 101人以上 101人以上 101人以上
拡大する実習時間確保のための方策 ・実習開始時期を5年次5月から4年次1月に4ヶ月前倒しする。
・現在4年次1〜3月に行っている臨床技能を中心に学ぶ授業を、臨床実習前教育として明確に位置づけ、一部は臨床実習期間とする。また現在4年次2〜3月にかけて実施している共用試験CBT/OSCEは4年次12月までに実施する。
・実習終了時期を6年次7月から6年次10月に2ヶ月(8月は夏休み)延長する。
・実習後の6年次9〜11月にかけて行っている筆記試験による卒業試験は、診療科ごとの電子ポートフォリオによる評価に徐々に移行する。

 

(2)診療参加型臨床実習の内容等

事項 現在の取組状況 本事業実施による改善計画
@医学生の指導体制(学内実習) ほとんどの診療科において、学生は診療を「見学」したり、病棟近くのカンファランスルームで「講義」を受けたりしている 指導医・後期研修医・初期研修医・医学生をそれぞれ1〜2名含める屋根瓦式の診療チームを作る。指導医はEに示す「診療チーム内の役割・業務(=タスク)」を学生が担うことで、臨床実習の学習目標全体が学べるよう、学生のタスクを設定する。学生はそのタスクを履行し、それらに対して指導医のみならず後期・初期研修医などがフィードバックを行うという「タスク基盤型臨床実習」を実施する。
また京都大学内に勤める基礎・社会医学研究者の中から臨床教育に関心のある人材を指導医としてリクルートし、週に半日程度、学生・研修医教育を担ってもらう。
A学外実習の指導体制 見学できる症例は一般的で量も多いが、診療現場で学生の担う役割・業務(タスク)が明確でない。臨床教授が中心になって指導を行っている。 京都大学の関連病院を中心に15病院程度を臨床実習拠点病院として重点化する。これらの病院においても、指導医・後期研修医・初期研修医・医学生をそれぞれ1〜2名含める屋根瓦式の診療チームを作り、臨床教授以外に後期・初期研修医も学生の指導に当たる。また本事業による教員が中心となって、月に1回程度、学外病院で学生・研修医向けの症例検討会を企画・実施し、その場にその病院の指導医も参加して教育の質を確保する。
さらに海外での臨床実習を積極的に推進する。
B指導医に対するFDの実施 研修医指導を目的とした厚生労働省認定の指導医講習会しか行われていない 診療参加型臨床実習に内容を特化したFDを学内および重点化15病院の指導医・研修医を対象に年に2〜3回程度実施し、特にEに示す学生の「診療チーム内の役割・業務(=タスク)」およびIの電子ポートフォリオの利用方法が理解できるよう努める。また、学外重点化15病院については月に1度の上記Aの症例検討会実施時に、臨床実習の現場の観察を行って、学生がタスクを担っているかどうか、またそれに対して適切に指導がなされているかどうかに関して、指導医にフィードバックを行う。学内については同様の観察評価およびフィードバックを月に1回程度行う。
また特に熱心で優秀な指導医(学内外問わず)については、海外の先進的な教育施設にFDのため派遣する。
C指導医の負担軽減のための工夫 「学生には講義形式で教えなければならない」という間違った責任感のもと、学生に対して「現場から離れて」講義が多く行われており、指導医の直接的な負担となっている。また同時にローテートする学生の数は6〜8名程度である。 Eに示す学生の「診療チーム内の役割・業務(=タスク)」を指導医が理解し、それを学生に与えることで、通常業務の中に実習が組み込まれるため、指導医や研修医の診療業務が軽減できる。同時にローテートする学生の数も3名程度に制限する。また簡単な内容については屋根瓦式診療チーム内の後期・初期研修医が学生の指導を担うことで、指導医の教育負担を減らす。さらに@に示す基礎・社会医学研究者の中から非常勤の指導医をリクルートすることで、各診療科の指導医の教育負担を軽減できる。
D診療科ローテーションの方法 内科系・外科系(必修)を3週×7、その他の診療科(必修)は1週×20。選択実習は4週×2。
内科系の臨床実習において、経験できない診療分野(例:循環器内科)があることが問題となっている。
全臨床実習期間は49週である。
内科系・外科系(必修)は4週×7として実習時間を十分にとり、診療参加型が実施しやすい環境を整備する。さらに総合診療実習(プライマリ・ケア領域)を4週加える。その他の診療科(必修)はそれぞれ1〜2週とする。選択実習は4週×3として拡充し、海外での臨床実習を推進する。
総合診療実習は、診断のついていない症例を豊富に経験できる学外の重点化病院で主に行う。内科系・外科系(必修)の実習においても学外実習の量を拡充する。
全臨床実習期間は73週となる。
E実習における学生の役割 外来では指導医の診察の後ろでその様子を見学する。病棟では担当患者を割り当てられてはいるが、主に指導医の診療経過をフォローしている。 以下のような内容を学生のタスクとし、学習および評価はこれをもとに行う(タスク基盤型臨床実習)。1)外来患者の医療面接および身体診察を指導医の診察前に行う 2)病棟患者の医療面接や身体診察を行って、その結果を指導医に朝の回診の際にプレゼンテーションする 3)担当患者の診断や治療に必要な文献を探す 4)病棟で患者に対応が必要なことがあれば、ファーストコールで呼ばれて最初の対応を(必要に応じて研修医と一緒に)行う 5)担当患者の話をゆっくり聞く、など。これら以外にも診療科に応じてタスクを設定する。
F学生が行える診療行為の考え方 学生が「診療に参加する」ということは十分理解されていない。学生が実施可能な侵襲的医療行為についてもあまり十分に周知されていない。 上記BのFDなどを通して指導医に学生のタスク(上記E)について理解を促し、また本事業による教員が適宜アドバイスを行う。学生が実施可能な侵襲的行為についてもFDなどを通して周知する。
G学生のカルテ記入に関する取扱い 現在も学生は電子カルテに記入できる状況にあるが、指導医の承認が不十分な場合が時に見られる。 学生が電子カルテに入力した内容を毎朝の回診時に指導医が承認するなど、診療科に合わせた形で実施可能な指導医の確認方法を構築して実施するよう、FDなどで討議する。
H実習における多職種との連携 医学部1年生を対象にした外来患者支援ボランティア実習において、看護学生・薬学生とともに実習を行っている。5・6年生の臨床実習については、診療に参加していないため、多職種との連携はあまり行われていない。 左に記す外来患者支援ボランティア実習において、5〜6年生が指導者として関わることで、臨床実習における多職種での学習を推進する。また屋根瓦式の診療チーム内で担当した患者の検査などには必ず同行するようにして、検査・放射線技師との連携を図る。さらに病棟や外来で看護師との合同カンファランスなどに学生に積極的に参加するように促す。
Iに示すように電子ポートフォリオによる評価方法を用いて、そこに多職種による評価(360度評価)を取り入れる。
I実習後の評価方法 各科による卒業試験(筆記試験)の形で行われている 各診療科へのローテート終了時に、Work-based Assessmentの理論に基づき、電子ポートフォリオによる評価を実施する。指導医はMini-CEXなどの観察評価を中心に行って「何を知っているか?」だけでなく「何ができるか?」を評価する。またHに示すように、看護師をはじめとする複数の医療職が学生のパフォーマンスを評価(360度評価)する。さらに実習終了時にSignificant Event Analysis(SEA)等のツールを用いて振り返りを行い、自己評価も行う。
筆記試験による卒業試験のあり方については学内で討議を行う。
J特色・特記事項 特に拡充する実習期間を中心に、京都大学の強みである多くの関連市中病院を生かし、そこでの臨床実習を拡充する。臨床実習に特化したFDを実施するなどして教育の質を保証して、特に大学病院では実施が難しいプライマリ・ケア領域の教育を充実させる。
また、臨床実習における交換留学の促進については、京都大学と提携する海外の大学を増やし、単位互換・奨学金などの教育体制を充実させる。京都大学から派遣する学生については、事前の準備学習(英語など)も充実させ、医学教育の国際化を図る。また京都大学での臨床実習を希望する海外の医学生を積極的に受け入れる。
さらに、卒前・卒後教育のシームレス化を目指し、研修医教育と学生教育を可能な限り一体化することも目標に、本事業による参加型臨床実習の学内各科および学外病院とのコーディネートは、卒後臨床研修のそれと連携する形で実施する。

 

3.本事業で雇用する教員の概要

職名 医学教育推進センター 特定講師
雇用開始時期 平成24年10月
役割 1)電子ポートフォリオの開発 2)参加型臨床実習に特化したFDの実施 3)学外実習機関での症例検討会の実施 4)診療現場での直接の学生指導 5)臨床実習における交換留学のコーディネート 6)基礎・社会医学研究者の中から臨床実習の指導ができる人材の発掘
これらはいずれも医学教育推進センターおよび附属病院総合臨床教育・研修センターの教員と協同して行う。電子ポートフォリオの開発については一部を外部会社に委託する。
補助期間終了後の雇用に関する見通し 原則として継続雇用する。財源については大学附属病院で確保するめどが立っている。

 

4.事業の運営体制

本事業で雇用する教員は、医学教育推進センター教員(専任3名)および附属病院総合臨床教育・研修センター教員(専任2名・兼任約30名)と協同して活動する。医学部の卒前教育に関する決定機関である学務委員会(月に1回開催。構成員は医学部長・副医学部長・附属病院副院長・臨床系教員6名・基礎系教員6名・社会健康系教員3名・医学教育推進センター教員2名)で事業の計画・実施に関する決定を行う。

 

5.事業の評価体制

カリキュラム改変後、半年に1回、学生および学内外の指導医と後期・初期研修医を対象に、アンケートおよびインタビュー調査を実施して事業の評価を行い、適宜改善する。また事業終了時、世界医学教育連盟(WFME)の国際認証に関わる医学教育専門家、米国のECFMGに関わる医学教育専門家、および国内外で先進的な臨床実習を実施している大学の教員などを招聘して、外部評価を行う。

 

6.事業の成果及び効果

本事業の成果および効果(達成目標)として、以下をあげる。1)臨床実習の期間を73週にする 2)臨床実習の評価に用いる電子ポートフォリオが構築される 3)約15病院を予定している臨床実習拠点病院において毎月症例検討会が実施される 4)臨床研修と臨床実習の協同体制(卒前卒後のシームレス化)を構築する 5)海外で臨床実習を行う京都大学の医学生の数を年間20名以上にする 6)海外から京都大学で臨床実習を行う医学生の数を年間5名以上にする 7)臨床実習の指導医になる京都大学内に勤める基礎・社会医学研究者を5名以上掘り起こす 8)年に2〜3回、臨床実習に特化したFDが学内で実施される 9)年に1人以上、優秀な指導医をFD目的で海外の先進的な教育機関に派遣する 10)5で記した外部評価において、特に診療参加型の臨床実習になっているかどうかの点について高い評価を得る

 

7.実施計画

24年度 @ 9月    学生用のPHSの購入
A 10月〜12月 国内外の先進的な臨床実習カリキュラムの調査
B 10月〜3月 京都大学における臨床実習カリキュラムの改変に関する討論
C 10月〜3月 基礎・社会医学研究者の臨床実習指導医の掘り起こし
D 10月〜3月 海外の先進的な大学との交換留学(臨床実習)に関する打ち合わせ
E 1月〜3月  電子ポートフォリオシステムの構築
F 1月〜3月  学外実習機関の執行部・指導医との打ち合わせ会議
25年度 @ 4月    学生用のPHSの購入
A 4月〜9月  重点化病院において診療参加型臨床実習に関する説明会の実施
B 4月〜9月  電子ポートフォリオシステムの構築
C 4月〜3月  基礎・社会医学研究者の臨床実習指導医の掘り起こし
D 4月〜3月  海外の先進的な大学との交換留学(臨床実習)に関する打ち合わせ
E 6月     京都大学における新しい臨床実習カリキュラムの決定 
F 6月・10月 京大学内で臨床実習に特化したFDの実施
G 1月    新カリキュラムによる診療参加型臨床実習の開始
26年度 @ 4月・9月  新カリキュラムの評価とその結果を受けての改善    
A 4月〜3月  基礎・社会医学研究者の臨床実習指導医の掘り起こし
B 4月〜3月  海外の先進的な大学との交換留学(臨床実習)に関する打ち合わせ
C 4月〜3月  重点化病院において症例検討会および臨床実習に特化したFDの実施
D 6月・10月 京大学内で臨床実習に特化したFDの実施
27年度 @ 4月・9月  新カリキュラムの評価とその結果を受けての改善    
A 4月〜3月  基礎・社会医学研究者の臨床実習指導医の掘り起こし
B 4月〜3月  海外の先進的な大学との交換留学(臨床実習)に関する打ち合わせ
C 4月〜3月  重点化病院において症例検討会および臨床実習に特化したFDの実施
D 6月・10月 京大学内で臨床実習に特化したFDの実施
28年度 @ 4月・9月  新カリキュラムの評価とその結果を受けての改善    
A 4月〜3月  基礎・社会医学研究者の臨床実習指導医の掘り起こし
B 4月〜3月  海外の先進的な大学との交換留学(臨床実習)に関する打ち合わせ
C 4月〜3月  重点化病院において症例検討会および臨床実習に特化したFDの実施
D 6月・10月 京大学内で臨床実習に特化したFDの実施
E 12月    終了時外部評価

 

▲Page Top